樹木希林と向田邦子作品が母とぼくをつないでくれた。
【隔週木曜日更新】連載「母への詫び状」第二十六回
■時は流れて。今度はドラマに二人でハマった。
当連載のタイトルに『父の詫び状』をもじって『母への詫び状』と付けたのは、以上のような理由による。
あれから30数年。母の介護をするようになり、再び向田作品のお世話になった。今度は本じゃなくて、ドラマで。
『寺内貫太郎一家』を気に入ってくれたので、『阿修羅のごとく』も『だいこんの花』も、TBSの新春ドラマ傑作選シリーズ(これは脚本ではなく、原作・向田邦子)も、レンタルDVDやNHKオンデマンドを駆使しながら、片っ端から母と一緒に見た。
『寺内貫太郎一家』についてひとこと付け加えれば、あの作品は決してほのぼのした昭和のホームドラマなどではなく、障碍者の長女が出てきて差別の問題も描かれていたし、「きったねえな、ばあちゃん」で年寄りの汚さを堂々とセリフにしていた点でも、毒が効いていた。あの毒と笑いの同居が向田ドラマの本領だ。
たとえ介護ベッドの上でしか生活できなくても、楽しいことはいくつもある。母と二人で昔のテレビドラマを見まくったのは、今となれば、ぜいたくな、かけがえのない時間だった。